「長岡生姜醤油ラーメン」の源流、青島食堂へ。名店がつむいだ「淡々とやるだけ」の60年
2021/4/30
新潟県は隠れたラーメン王国であることをご存じだろうか? 1世帯あたりの中華そば消費金額ランキング(2018~2020年)では新潟市が全国第2位に君臨しており、県内のあちこちに新旧店がひしめき合って今やラーメン激戦区と化している。
個性あふれるラーメンがそろう中、注目したいのが「新潟5大ラーメン」と呼ばれるご当地ラーメン。あっさり醤油(新潟市)、濃厚みそ(新潟市)、生姜醤油(長岡市)、背脂(燕市・三条市)、カレー中華(三条市)はどれも地元民のソウルフードとして定着している。
今回取材を試みたのは、長岡を代表する「生姜醤油ラーメン」をこの世に生み出したパイオニア的存在である「青島食堂」だ。市内外から熱狂的ラーメンファンが訪れる有名店ながら、代表者がメディアに出演しないことから、店の歴史については深く語られずにきた。誰もが知っているにもかかわらず謎のベールに包まれた老舗ラーメン店に迫るため、店舗を訪ねた。
大衆食堂からラーメン専門店へ
青島食堂が歩んだ歴史

「青島食堂 宮内駅前店」。最も歴史のある店舗のため本店と思われているが、そうではない(本店は存在しない)。

スタッフの大塚直美さん。彼女以外にも勤続20年を超えるベテランスタッフは多い。
この人気店を率いる社長にぜひ話を伺いたかったのだが、残念ながら出演NGということで、古参スタッフの大塚さんから知り得る限りの情報を教えてもらった。

カウンター越しに、華麗な手さばきによるラーメンづくりを眺められる。(現在は新型コロナ対策のためビニール製の仕切りあり)
青島食堂のラーメンには、他にはない大きな特徴があった。それは“大量のショウガを使うこと”。先代社長はスープの豚骨の臭みを消すために、様々な材料を加えたり、調理法を工夫したりと試行錯誤するなか、最終的にはスープの仕込み時にショウガをたっぷりと加えることで、すっきりとした味わいに仕上げることに成功した。当時の味は変わらず現在へと受け継がれている。

「青島食堂 宮内駅前店」から300メートル先にある「青島食堂 曲新町店」。

「青島食堂 曲宮内店」では建物の半分が製麺所になっている。

「青島食堂秋葉原店」は連日大行列の人気ぶり(提供:フェイスブック新潟県人会)
そして、店舗数が増えたことで、予期せぬ状況も生まれた。それは「長岡生姜醤油ラーメン」というカテゴリーの誕生と拡大だ。青島食堂が多店舗展開することで、ラーメン修行を希望する若手も多く集まった。彼らは後に独立し、自らの店の看板メニューとして「生姜醤油ラーメン」と銘打ったラーメンを提供。キリっとショウガを利かせたスープは人気を博し、元祖生姜醤油ラーメン店として、青島食堂がひときわ注目されるようになったのだ。現在、長岡生姜醤油ラーメンを提供するお店は県内に多数あり、ラーメンあおきや(長岡市)、惣右衛門(長岡市)、らーめんヒグマ(小千谷市)などが有名店として名を馳せている。
60年来変わらない
昔ながらの一杯を堪能
さて、それほどの人気を博する青島食堂のラーメンとは、いったいどんな味なのか。実際にオーダーして味わってみることにした。

最新型の券売機を導入。

ラーメンスープの芳醇な香りが充満する店内。「早く食べたい!」と気持ちが募る。

しなやかな自家製麺は、じっくり熟成させるのがおいしさの秘訣。

店舗によって味がぶれないようにしているそうだが、作り手ごとに若干の味の個性は出るそう。
スープに使用するのは、豚骨や鶏ガラ、玉ねぎ、りんご、ニンニクなどで、さらに大量の高知産ショウガが味わいの決め手になる。ショウガはカットせず少し潰して煮込み、エキスを抽出するのが青島食堂流。ちなみにこのスープはすべて「青島食堂 曙店」で仕込まれ、毎朝各店舗に届けられる。東京の秋葉原店にも、社長みずから週に二回スープを直接届けに行くというこだわりようだ。

チャッチャッチャッと湯切りのリズムも心地良い。

60年来変わらない懐かしい雰囲気がたまらない!

スープの色は濃いが見た目ほどしょっぱくはなく、最後の一滴まで飲み干したくなる。

生姜醤油スープにベストマッチの麺は、さすが研究し尽くされた味わい。

個性豊かな具材のなかでもチャーシューが絶品!肉好きはぜひ「青島チャーシュー」をオーダーして。
長い歴史の中で人々に愛されてきた、完璧なバランスの青島ラーメン。週に何度も訪れる常連客も少なくないそうで、いつ来ても変わらない味わいを楽しめる。
何にもとらわれず“普通にやるだけ”
タフな社長が体現する青島の美学
50年以上という長い歳月にわたって地元民に愛され、ご当地ラーメンとして全国から注目を集めるようになった青島ラーメン。そこでがぜん気になるのは、長岡生姜醤油ラーメンを広めるきっかけをつくった社長がどのような人物なのかということだ。スタッフの矢島さん(ご本人の希望で顔写真はなし)に謎めく社長の人物像について尋ねたところ、意外な一面が垣間見えた。
「一言であらわすと、“バイタリティがある方”でしょうか。人一倍働いている気がします。例えば、冬の長岡は毎日大量の雪が降りますが、社長は誰よりも早くお店にかけつけ、率先して雪かきをしています。それに思いついたら即行動、まずは挑戦してみるという心意気もすごいです。全8店舗にまで拡大したのは現社長の功績ですし、今もなお新しいことへの挑戦を考えているみたいですよ」(矢島さん)
現在60代後半だという社長は、スタッフの間でも“タフな人物”として知られている。10年ほど前までは現場で毎日ラーメンを作っていたそうだが現在は一線を退き、代わりにスープの仕込みを手伝ったり、各店舗へ完成したスープを配送したりといったサポートや経営に専念している。
ところで、「長岡生姜醤油ラーメン」という言葉は、青島食堂の元スタッフたちが独立して自らの店で提供したことで県内に広がったという経緯がある。青島食堂では実際のところ「青島ラーメン」として提供しており、“生姜醤油”という文言はいっさい入れていない。特にのれん分けのような制度も設けなかったが、独立したスタッフたちがこのラーメンの特徴である大量のショウガを使ったスープにインスパイアされ、「生姜醤油ラーメン」と名付けて提供を始めたというのが現在に至る経緯。
彼らが生姜醤油ラーメンを提供し始め、それがひとつのカテゴリーとして世の中に認知されたことについて、社長はどう捉えているのだろうか。
「社長は、特になんとも思わなかったようです。『彼らには腕や才能があったのだな』と言っていました。もちろん敵視しているわけでもありません」(矢島さん)

スープづくりに欠かせない高知産のショウガは、すっきりとした風味をプラスする名脇役。
最後に、今もなお人気が高まる生姜醤油ラーメンのパイオニアとして、取り組んでいきたいことについて聞いた。
「社長いわく『今まで通りのことを普通にやっていくだけです』とのこと。『私もまだ修行中の身ですので、偉そうなことは言えません。ラーメン作りを普通にこなしていく、ただそれだけです』と言っていました」(矢島さん)

毎日自家製でつくり続けるこだわり麺。今日も一杯のラーメンが誰かを笑顔にしている。
青島食堂 宮内駅前店
[住所]新潟県長岡市宮内3-5-3
[営業時間]11時~19時
[定休日]第3水曜日
[電話]0258-34-1186
Text:渡辺まりこ



