映画カクテル100種以上、店員全員テンガロン。個性派バー・フォーティーナイナーズの「正統派の信念」
気分はまるで荒野のガンマン…? 作り込まれたウエスタンな内装
JR長岡駅大手口から徒歩5分、メインストリートである大手通りから一本入ったすずらん通りを歩いていると突然現れる、西部劇の雰囲気漂うファサード。看板中央にはリアルな雄鹿の頭骨オブジェが突き出しており、訪れる者を出迎える。こちらが噂のウェスタンバー「Forty-Niners(フォーティーナイナーズ)」だ。

50席の広々とした店内。某テーマパークのウエスタンランドを彷彿させる。

壁面には、星条旗や海外たばこのコレクション。その他、店主が長年かけて集めたヴィンテージポスターや食品の包装といった、古き良きアメリカを感じる要素が並ぶ。

入口近くにある樽のオブジェは、サントリー「山崎」のウイスキー樽にペイントした店主の自信作。ほかにも店内はプロ顔負けのDIYで作った部分が多いという。

オーナー兼バーテンダーの大橋元木さん。
レパートリーは無限! 噂の“映画カクテル”をオーダーしてみた
まずは、さっそく気になる噂を検証してみよう。大橋さんに「どんなカクテルがあるのですか?」と尋ねると、分厚いメニューを手渡された。
「レパートリーは星の数ほど」との言葉通り、名作映画を冠したカクテルがずらり。1杯600~800円程度のリーズナブルな価格にも驚く。
サーブされたのがこちら。さて、何がどの作品だかおわかりだろうか?
「思わず『バルス!』と叫びたくなるこちらは、青く光る飛行石をイメージした『天空の城ラピュタ』です。グラスの中には、企業秘密の光る氷を入れています」
「こちらは深い暗闇をイメージした『2001年宇宙の旅』。グラスの底にはコンピュータの目をイメージしたチェリーが沈んでいます。ハーブ風味のシャンパンカクテルです」
「『新世紀エヴァンゲリオン』は初号機のパープル、零号機のイエロー、2号機のレッドの色あいを表現しています。甘酸っぱいフルーツテイストです」
解説を聞くと、なるほどと思わず膝を打つアイディアに感心する。映画をイメージしたカクテルは、様々な視点でレシピを決めているそうだ。例えば、『レオン』は主人公の殺し屋・レオンが作中でよく飲んでいた牛乳がベース。『美女と野獣』は華やかなバラの香りがするシャンパンベース。『老人と海』はキューバの海が舞台であることからキューバ産ラムベースなど、作中に登場するモチーフやのカクテルとなっている。
「基本的にメニュー表では、カクテルの詳細な説明をしていません。だから、提供されるまでどんな色かも味かも分からないんです。意外性とワクワクを体感してほしいですね」

(左)苺×ミルクで甘い恋をイメージした『メリーに首ったけ』。(右)緑色の髪とピエロの赤い鼻をイメージした『ジョーカー』(画像:編集部)

(左)ブラックホールの宇宙をイメージした色合いが絶妙な『インターステラー』。(右)日本酒ベースの『仁義なき戦い』は盃で提供する。(画像:編集部)
最後に「これはびっくりしますよ!」と運ばれたのは、なんと青い炎が上がったメジャーカップ。
橙色のカクテルが入ったグラスに炎を移すと、たちまち緑色に変化!こちらは消防士が主役の映画『バックドラフト』のカクテル。火災から連想した炎をイメージした演出は意外性があり、思わずテンションが上がってしまった。
「フォーティーナイナーズ」で提供するカクテルのモチーフになっている映画作品は、1950年代のものから2020年代のものまで幅広い。最近の作品のオーダーが多いのかと思いきや、時代が古い名作映画カクテルも根強く愛されている。映画カクテルをきっかけに、お客さん同士で「この作品のイメージは確かにこんな色だ」「もうちょっとこういう味のほうがイメージだな」」とそれぞれの解釈を披露し合う姿も見られ、カウンター席で隣り合った者同士で自然発生的に会話が生まれている。
オーセンティックな正統派から 個性派バーに転向した理由
大橋さんはいつ頃から、映画を冠したカクテルを提供していたのか? そのはじまりは25年以上前にさかのぼる。 大橋さんは当時、東京・渋谷の名物バー「八月の鯨」でバーテンダーとして働いていた。映画好きの間で有名な店で、映画をモチーフとしたオリジナルカクテルを提供している。このコンセプトはオーナーが決めたものだったが、週2~3本は映画を観賞する大橋さんにとって、映画の世界観を表現するカクテルづくりは楽しかったそうだ。 2001年に地元長岡へUターン後、駅前の繁華街・殿町に10席のこぢんまりとしたバーをオープン。その当時も、映画をイメージしたカクテルを提供していたが、店構えは現在とは異なり、正統派のオーセンティックバーだったという。ところが、4年ほど経つうちに、自身が理想とする店のイメージとは違うと感じるようになった。
「オーセンティックな店構えでカウンターだけだとどうしても静かに飲むお客さんが多いんですが、実は、そういう店はなんだか性に合わなくて……。もっとにぎやかなお店にしたいと考えたことから、思いきって移転を決めました」
それで移転してきたのが、現在の場所。席数は5倍の50席となり、広々とした店内での営業となった。店名は「アクア・ヴィタエ(ラテン語で“生命の水”)」。移転前の店と同様、オーセンティックな雰囲気が漂う本格的なバーだった。大橋さんはじめスタッフは、蝶ネクタイとベストのシックな出で立ちで、お客を出迎えた。しかし、ここでもやはり大橋さんは「イメージが違う」と感じてしまう……。テーブル席が増えただけでは、静かなムードは変わらなかったのだ。

(画像:フォーティーナイナーズ)

(画像:フォーティーナイナーズ)
看板商品は「バッファローウィング」 お酒好きの胃袋を掴むアメリカ料理
もっとわいわい楽しんでもらう店にするため、フードメニューも大幅に増強することにした。「ウエスタン」がテーマである以上、フードメニューの中心はアメリカ料理となった。店のリニューアル時に以前からの常連のお客と共に作り上げたのが、看板商品「バッファローチキンウィング」だ。 「このレシピ開発をした日々は思い出深いです。私は料理が得意ではないのですが、お客さんで料理が好きな方たちがレシピ作りや改良を手伝ってくれたんです。試作しては味見をしてもらっての繰り返しで、時間をかけて納得いくレシピが完成しました」
看板商品の「バッファローチキンウィング」。(画像:フォーティーナイナーズ)

パンケーキとクッキーを組み合わせた「パヌッキー」も。

フードメニューは約60種類。パンチが効いた揚げ物やあっさりサラダまで、気の利いたメニューがそろう。(画像:フォーティーナイナーズ)
「マニアックなオーダーにも応えたい」 常備するボトルは300本以上
迷ってしまうといえば……カクテル以外のドリンクの数も尋常ではない。例えば、ビールはラガーやスタウト、ポーターなど幅広いスタイルで、銘柄も世界のさまざまなブランドをラインナップ。オーセンティック出身の大橋さんが特にこだわるウイスキーに至っては、メニューに掲載されているだけで50以上。メニューに記載されていないマニアックなものもあり、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン、日本など、ウイスキー愛好家も納得の品揃えだ。他の種類のお酒も含め、全部で300本以上のボトルを常備している。
オーソドックスな銘柄から通向けまで。カウンターの壁面棚にはボトルが立ち並ぶ。

本格派だけでなく、フルーティーなビールも用意。(画像:フォーティーナイナーズ)
「フォーティーナイナーズ」は飲み会の2軒目・3軒目としても重宝されるという。それもそのはず、深夜3時まで営業する店はこの辺りではめずらしい。「本当は早めの時間帯で閉店にしたかったんですが……」と大橋さんは苦笑しつつ話すが、常連客たちの遅くまで飲みたいという希望を聞くなかで、遅くまで店を開けることとなった。お客を大切にしたいという、大橋さんの強い想いを感じる。
また、「フォーティナイナーズ」は全国の西部劇ファンの間でも名の知れた店となっており、カントリーミュージックのライブやダンスのイベントを開催すると、県内はもとより遠方からもこぞってお客が押し寄せる(残念ながら現在は新型コロナウイルス感染症の余波でイベントを休止中とのことで、再開を待ち望んでいるお客は多い)。大橋さんが「お客さんに楽しんでもらえる店」という極めてまっとうな信念を模索した結果として独自の進化を遂げたこの場所は、お酒や食、カントリーといった文化を媒介に、確かに多くの人の居場所になっているのだ。

(画像:フォーティーナイナーズ)
Text&Photo/渡辺まりこ



